こんにちは、nobuです。
忙しいランチ営業中、従業員が食器を落として割ってしまった。キッチンでは厨房機器を誤って壊してしまった。お店の物が壊れた時に経営者や店長として気になるのが、従業員に弁償を求めてもよいのかという問題です。
実は、仕事中にお店の物を壊したからといって、必ず弁償しなければならないわけではありません。ただし、状況によっては損害賠償を求められる場合もあります。今回は、従業員が備品を壊したときの法律上のルールと、お店や会社で考えておきたい対応について紹介します。
従業員が店の備品を壊したら、弁償させてもいい?
結論からいうと、従業員が仕事中に備品を壊しても、当然に全額を弁償させられるわけではありません。例えば、忙しい営業時間中に従業員がグラスを落として割ってしまったとします。お店にとっては損失ですが、仕事をしていれば、ミスや事故が起こることもあります。
厚生労働省も、仕事上のミスは会社を経営するうえで起こり得るリスクの一つであり、従業員が必ず損害賠償の責任を負うわけではないと説明しています。ただし、従業員の行動によって実際に損害が出た場合には、弁償を求められることもあります。
そのために弁償を求めるかどうかは、備品が壊れたときの状況や従業員の不注意の程度などを踏まえ、慎重に判断する必要があります。
弁償する金額をあらかじめ決めてもいい?
労働基準法第16条では、仕事上の約束を守らなかった場合の違約金や、損害賠償の金額をあらかじめ決める契約を禁止しています。
例えば、次のような取り決めです。
- グラスを割ったら、1個につき3,000円を支払う
- お店の備品を壊したら、一律1万円を弁償する
このように、備品を壊した場合の弁償額を、あらかじめ決めておく契約は認められません。ただし、実際に備品が壊れ、損害が発生した場合には、その状況に応じて従業員に弁償を求めることは可能です。
つまり、弁償額を事前に決めることは禁止されていますが、実際の損害について弁償を求めることまで禁止されているわけではない、ということです。
実際に損害が出たら、全額を請求できる?
では、実際に弁償を求める場合、従業員に全額を負担させてもよいのでしょうか?この点について参考になるのが、茨城石炭商事事件(最高裁昭和51年7月8日判決)です。
この事件では、仕事中に従業員が交通事故を起こし、会社が損害賠償を求めました。裁判所は、従業員の不注意だけでなく、仕事内容や労働条件、会社の事故防止策、保険への加入状況なども考慮しています。
その結果、会社が請求できる金額は、損害額の4分の1までと判断されました。
ただし、これはすべての事故に当てはまる割合ではありません。従業員と会社のどちらが、どの程度の損害を負担するのが公平なのか、個別の事情を踏まえて判断するという考え方が重要です。
飲食店であれば、例えば次のような点が関係する可能性があります。
- 忙しい時間帯に、無理な作業をさせていなかったか
- 食器や備品を安全に扱える環境だったか
- 備品の使い方や注意点を伝えていたか
- 従業員がどのような状況で備品を壊したのか
従業員に不注意があったとしても、それだけで責任の範囲が決まるわけではありません。お店や会社側の管理状況なども考慮されるため、必ずしも損害の全額を従業員が負担させられるとは限らないのです。
弁償代を給与から天引きしてもいい?
従業員に弁償を求められる場合でも、会社が一方的に給与からその金額を差し引くことは認められません。
労働基準法第24条では、給与は原則として全額支払うことが定められています。そのため、従業員が厨房機器を壊したとしても、会社の判断だけで修理代を給与から天引きすることはできないのです。
ただし、従業員が自分の意思で、弁償する金額を給与から差し引くことに同意した場合には、認められることもあります。
ここで注意したいのは、同意書にサインがあれば必ず認められるわけではないという点です。従業員が会社から無理に同意を求められたのではなく、本当に自分の意思で同意したと認められる必要があります。
給与からの天引きを考える場合は、従業員の同意だけでなく、そもそも弁償を求められる損害なのか、その金額が妥当なのかも確認しておきましょう。
従業員が備品を壊したとき、店長はどう対応する?
実際に備品が壊れたときは、まず従業員や周囲のお客様にけががないか確認しましょう。割れたグラスなどがあれば、安全に片付けることも必要です。
そのうえで、何が起きたのかを確認します。忙しくて一度に多くの食器を運んでいたのか、通路に物が置かれていたのか、それとも取り扱い方法を十分に理解していなかったのか。原因によって、必要な対応は変わってきます。
従業員の不注意があれば、必要な注意や指導を行うことも大切です。一方で、作業環境や備品の配置に問題があったなら、お店側でも改善を考えたいところです。
破損した状況や原因、行った対応を記録しておけば、同じような事故を防ぐための振り返りにも役立ちます。
従業員のミスが起きたときの考え方については、こちらの記事でも紹介しています。
▶ 関連記事
飲食店でミスが起きたとき、個人を責める前に確認したいこと
お店を経営する側にもできること
私が以前経営していた飲食店では、従業員が食器を割ってしまっても、弁償を求めることはありませんでした。
回転率がとても高いお店だったこともあり、食器が割れることは店舗運営で起こり得るリスクの一つだと考えていたからです。そのため、高価な食器を使用すること自体にも慎重でした。
一方で、店内には高価な展示物もあったため、その取り扱いについては従業員に注意するよう伝えていました。もちろん、食器や備品を大切に扱ってもらうことは必要です。ただ、破損したときに誰が弁償するのかを考えるだけでなく、経営する側が日頃からどのようなリスクに備えておくかも大切だと思っています。
これは私自身の経営上の判断であり、すべてのお店が同じ対応をしなければならないということではありません。お店や会社によって、扱う備品の種類も、従業員の仕事内容も違います。なのでこうした損害が出たときには、法律上の責任と経営上の判断を分けて考えたいですね。
まとめ
従業員が仕事中にお店の備品を壊しても、当然に全額を弁償させられるわけではありません。
法律では、弁償額をあらかじめ決める契約が禁止されており、会社が一方的に給与から差し引くことも原則として認められません。ただ、実際に損害が出た場合には状況によって弁償を求められることもあります。
お店や会社を守るためには、必要な責任を確認することも大切です。ただ、物が壊れたという結果だけで判断するのではなく、原因を確かめ、同じことが起きないように考えることも忘れたくありません。
従業員にもお店にも、無理のない働く環境をつくっていきたいですね。
参考にした公的情報
この記事は、以下の法令・公的情報をもとに作成しています。
- 労働基準法
第16条 賠償予定の禁止
第24条 賃金の支払 - 厚生労働省|人を雇うときのルール
- 厚生労働省|仕事上のミスを理由とする損害賠償
- 厚生労働省|不良品を出すごとに賠償金を賃金控除することは、労基法上許されますか?
- 厚生労働省|賃金と他の債権の相殺
- 石川労働局|賃金のきまり①
※法令・公的情報は2026年10月時点の内容を確認しています。


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