飲食店で「今日でクビ」はできる?即日解雇を簡単に考えると危険な理由

働き方

こんにちは、nobuです。

無断欠勤、従業員同士のトラブル、注意しても改善されない。色々なトラブルがあると「もう明日から来なくていい」と言いたくなる場面もあるかもしれません。

私自身、飲食店で働いていた頃、対応に悩む従業員は正直いました。当時、社長から「お前にクビにできる権限を与える」と言われたこともあります。でも、労務の仕事をしている今だからこそ伝えたいことがあります。

「今日でクビ」は、簡単にできるものではありません。

今回は、なぜ即日解雇を安易にしてはいけないのか。飲食店の経営者や店長に知っておいてほしい基本的なルールを、できるだけ分かりやすくお伝えします。

「今日でクビ」は簡単にできない理由

結論からいうと、従業員を即日解雇することは簡単ではありません。

法律上、一定の条件を満たせば、その日に解雇できる場合はあります。しかし、「問題を起こしたから今日でクビ」「お金を払えば今日でクビ」という単純な話ではありません。

解雇を考えるときは、大きく2つに分けると分かりやすくなります。

1つ目は、「その従業員を解雇するだけの理由があるのか」。

2つ目は、「解雇するときに必要な手続きをしているのか」です。

まず、解雇するときの手続きを定めているのが労働基準法第20条です。会社が従業員を解雇するときは、原則として少なくとも30日前に伝える必要がある、という内容です。30日前に伝えず、その日に解雇する場合には、原則として30日分以上の平均賃金を「解雇予告手当」として支払わなければなりません。

たとえば10日前に解雇を伝えるのであれば、足りない20日分以上の平均賃金を支払うことで、予告する期間を短くすることもできます。

ここだけを見ると、「じゃあ30日分払えば、今日でクビにできるのでは?」と思うかもしれません。

しかし、そう単純ではありません。

「必要なお金を支払ったか」と「その解雇自体が認められるか」は、別の問題だからです。

30日分払えば誰でも解雇できる、ではない

次に知っておきたいのが、労働契約法第16条です。

この法律では、解雇に「客観的に合理的な理由」がなく、「社会通念上相当」と認められない場合、その解雇は無効になると定められています。

少し難しい言葉ですね。簡単にいうと、「本当に解雇するだけの理由があるのか」「起きた問題に対して、解雇という対応が重すぎないか」などが問題になるということです。

たとえば、店長と従業員が口論になったとします。店長が腹を立てて、30日分払うから今日でクビ、と伝えたからといって、それだけで解雇が認められるわけではありません。

反対に、解雇を検討するだけの問題があったとしても、その日に解雇するのであれば、今度は解雇予告についてのルールも考える必要があります。

つまり、

「解雇するだけの理由があるか」

「解雇するときの手続きを守っているか」

この2つを分けて考えることが大切です。

そして、解雇が裁判などで無効と判断された場合、解雇されていなかったものとして扱われ、その期間の賃金の支払いが問題になることがあります。これが、いわゆる「バックペイ」と言われるものですが、そんな言葉があるんだな、といった感じで頭の片隅に入れておいてください。

争いが長くなれば、支払いが問題になる金額も大きくなる可能性があります。「とりあえず辞めてもらおう」という判断が、後からお店にとって大きな負担になることもあるのです。

金額そのものの問題もありますが、貴重な経営者や店長のリソースが割かれるリスクは、店や会社の死活問題につながる恐れがあるので、なるべく避けたいものですよね。

「横領なら即クビでいい」とも限らない

では、もっと重大な問題ならどうでしょうか。たとえば、従業員がお店のお金を横領していたとします。さすがに横領なら、その場でクビにしてもいいだろう、とそう思う人もいるかもしれません。

実際、厚生労働省は、会社内での窃盗や横領などを、30日前の予告や解雇予告手当なしで即時解雇できる可能性があるケースとして挙げています。

ただし、会社が「横領だから即クビ」と判断するだけで、解雇予告や解雇予告手当を省略できるわけではありません。この場合には、「従業員側に即時解雇されてもやむを得ない責任がある」として、労働基準監督署長の認定を受ける必要があります。

実際に、ホテルの支配人による横領が問題になった裁判があります。

裁判所は、支配人が会社に入れるべきお金を自分で管理し、少なくとも約272万円を横領したと認定しました。懲戒解雇そのものについても有効ですよ、と判断しています。

しかし、会社は労働基準監督署長の認定を受けていませんでした。そのため、会社には約40万円の解雇予告手当の支払いが命じられました。横領という重大な問題があり、解雇そのものが認められたケースでも、必要な手続きを取っていなければ会社側に支払いが発生することがあるということです。

「従業員が悪いのだから、その場でクビにして終わり」

判例から分かる通り、即日解雇はそんなに簡単なものではないです。相手方に非があるようケースでさえも、店側・会社側が手当を支払うケースがあることは、この際にしっかりと覚えておいてください。

参考:神戸地方裁判所 平成14年9月20日判決
裁判所公式・判決全文
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-18646.pdf

私も「クビにできる権限」を任されたことがある

私が飲食店で働いていた頃、実際に「この人と一緒に働き続けるのは難しい」と感じる従業員はいました。そして当時、社長から「お前にクビにできる権限を与える」と言われたことがあります。

当時は、店長として任された権限くらいに考えていましたが、労務の仕事をしている今なら、その判断の重さが分かります。解雇は、一人の従業員の生活にも、お店にも大きな影響を与えるものです。現場の責任者が感情やその場の状況だけで決めてよいものではありません。

従業員に問題があったとしても、まず何が起きたのかを確認する。本人から事情を聞く。必要であれば注意や指導を行い、その内容を記録する。そして、改善する機会をつくる。

もちろん、何が起きたのかによって必要な対応は変わります。横領などの重大な問題まで、必ず同じ順番で対応しなければならないという意味ではありません。

それでも、「問題があるからクビ」とすぐに結論を出すのではなく、その前に確認すべきことがあります。

「即クビ」は従業員だけでなく、お店にとっても危険

飲食店では、人と人との距離が近いからこそ、一人の従業員とのトラブルが店全体に影響することがあります。私自身も現場にいたので、「もう一緒に働くのは難しい」と感じる場面があることは分かります。

人を大事にするというのは、何があっても雇い続けることではないと思っています。

問題があれば、きちんと向き合う。本人にも伝える。改善が必要なら指導する。それでも難しい場合には、解雇を含めて必要な対応を考えることになります。

ただ、その判断を感情だけで行わないことが大切です。

「明日から来なくていい」

「今日でクビ」

こうした言葉をその場の判断で使ってしまうことは、従業員にとってだけでなく、お店にとっても大きなリスクがあります。

事実を確認する。本人の話を聞く。必要な注意や指導を行い、記録を残す。そして、解雇を検討するのであれば、必要なルールや手続きを確認する。

安易に「クビ」という選択をしないことは、働く人を守るだけではありません。

お店を大きなトラブルから守ることにもつながると、私は思っています。

解雇を考える前に、問題のある従業員へどのように対応すればよいのかについては、別の記事で詳しくまとめています。実際の対応に悩んでいる場合は、あわせて確認してみてくださいね。

※この記事は、解雇に関する一般的なルールを分かりやすく整理したものです。実際に解雇が有効かどうかは、問題となった行為の内容、これまでの指導、就業規則、雇用契約など、個別の事情によって判断が異なります。実際に解雇を検討する場合は、個別の事情に応じて専門家への相談も検討してください。

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