「nobuさん、少し時間いいですか?」
店長としては、少しドキッとする声かけですよね。そこから始まる従業員の「辞めたいです」。進学や就職、転職など理由はさまざまですが、一緒に働いてきた者としては寂しいものです。
私も飲食店で働いていた頃、何度も従業員の退職を経験しました。基本的には本人の意思を尊重していましたが、今振り返ると、退職するときにも確認しておくべきルールがあります。
たとえば、退職は何日前までに申し出てもらう必要があるのか、残っている有給休暇はどう扱うのか、退職日までにどんな手続きが必要なのか。今回は、従業員から退職を申し出られたときに、飲食店の経営者や店長が知っておきたい基本的なルールと対応を、私自身の経験も交えながら紹介します。
なお、この記事では主に、契約期間を決めずに働いている従業員の退職を扱います。契約期間が決まっている場合はルールが異なるため、別の記事で解説します。
従業員から「辞めたい」と言われたら、まず何を確認する?
従業員から退職を申し出られたときは、まず本人がいつ退職したいと考えているのかを確認しましょう。急な申し出であれば、店側としてはシフトや人員配置が気になるところですが、すぐに引き止めたり、退職を認めないと伝えたりするのではなく、まず本人の意思を確認することが大切です。
具体的には、次のようなことを確認しておくと、その後の対応を整理しやすくなります。
- 退職を希望している日
- 雇用契約に期間の定めがあるか
- 就業規則に定められた退職の手続き
- 残っているシフトや有給休暇
- 引き継ぎが必要な仕事
退職日について双方で確認できたら、後から認識の違いが生じないよう、退職届などの書面で記録を残しておくことも考えられます。ただし、書面がなければ退職できないという意味ではありません。まずは本人の意思と契約内容を確認し、そのうえで必要な手続きを進めていきましょう。
退職は何日前までに伝える必要がある?
従業員から急に退職を申し出られたとき、店長や経営者が気になるのは「いつまで働いてもらえるのか」という点ではないでしょうか。契約期間を決めずに働いている場合、民法第627条第1項では、原則として退職を申し出てから2週間が経過すると雇用契約が終了すると定められています。
つまり、従業員が退職の意思を明確に伝えた場合、会社が承諾しなければ辞められないというわけではありません。そのため、人手が足りないからといって「新しい人が見つかるまで辞めさせない」と、いつまでも退職を認めないことはできません。
就業規則に「1か月前」と書かれていたら?
一方、会社の就業規則には「退職する場合は1か月前までに申し出ること」など、退職するときの手続きが定められている場合があります。このようなルールがある場合は、まず就業規則を確認し、できるだけ早めに退職の希望を伝えてもらうことが大切です。早く分かれば、お店側もシフト調整や採用の準備を進めやすくなります。
ただし、就業規則に1か月前と書かれているからといって、従業員が2週間後の退職を希望した場合に、一方的に退職を認めないとするのは注意が必要です。厚生労働省は、期間の定めのない雇用契約について、労働者が一方的な意思表示によって退職する場合は、原則として2週間の予告期間で辞職できると説明しています。
就業規則で2週間を超える申出期間を定めた場合の法的な扱いについては、見解や裁判例も踏まえて慎重に判断する必要があります。退職日の希望が合わないときは、本人の意思を尊重しながら話し合い、判断に迷う場合は労働局の総合労働相談コーナーや専門家に相談しましょう。
急に「辞めたい」と言われたら、店側も振り返ってみる
私が飲食店で働いていた頃、特に印象に残っている出来事があります。新しく入った従業員が、働き始めて2時間ほどで「無理です」というような形で帰ってしまったことがありました。その日はかなり忙しく、対応したのは社長だったので、私自身が退職の話をしたわけではありません。
かなり極端な例ですが、飲食店では急に仕事を辞めたいと言われることもあります。店側としては「せっかく採用したのに」「これからのシフトをどうしよう」と考えてしまうでしょう。ただ、急な退職がすべて従業員側の問題とは限りません。
採用するときに伝えた給料や勤務時間、仕事内容などについて、お互いの認識は合っていたか。実際に働き始めてから、その内容と大きく違うところはなかったか。普段から本人とコミュニケーションを取れていたか。こうした部分を店側も振り返ってみる価値があります。
実は、私が飲食店を運営していた当時は、社長も私も「就業規則」という言葉すら知りませんでした。退職を何日前までに申し出てもらうのかという明確なルールもなく、今、労務の仕事に携わっているからこそ「人を雇うなら、こういうところまで整えておく必要があったんだな」と感じています。
退職するときだけルールを確認するのではなく、採用時から労働条件をきちんと伝え、店と従業員がお互いに確認しておくことが大切です。
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退職日が決まったら、何を確認する?
本人と退職日を確認したら、次は実際に辞めるまでの流れを整理します。飲食店では、シフトの調整や引き継ぎだけでなく、有給休暇や退職に伴う手続きも確認しておきたいところです。
退職日と最終出勤日は違う
まず知っておきたいのが、「退職日」と「最終出勤日」の違いです。たとえば、3月31日付で退職する従業員が、残っている有給休暇を3月25日から31日までの所定労働日に取得するとします。この場合、次のようになります。
- 最終出勤日:3月24日
- 退職日:3月31日
3月24日を最後にお店へ出勤しなくても、3月31日までは会社に在籍しているということです。退職予定の従業員であっても、在籍している間は有給休暇を取得できます。また、会社が有給休暇の時季を変更できる場合でも、退職日より後の日へ変更することはできません。
そのため、「もう辞める人だから有給は使えない」「人手が足りないから退職前の有給は認めない」と単純に考えないよう注意が必要です。
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残っているシフトや引き継ぎを確認する
退職日と最終出勤日が決まったら、残っているシフトや必要な引き継ぎ、制服や鍵など、お店から貸しているものの返却についても確認しておきます。
私がいた店では、大がかりな引き継ぎはほとんどありませんでした。教育担当が使っていたマニュアルなど、一部の仕事について確認する程度です。ただし、発注や新人教育など、その人しか分からない仕事がある場合は別です。誰か一人が辞めるだけで仕事が回らなくなるのであれば、退職をきっかけに仕事のやり方を整理しておくのもよいでしょう。
社会保険や雇用保険などの手続きも忘れずに
退職するときには、社会保険や雇用保険の資格喪失など、加入状況に応じた手続きも必要になります。退職日が決まったら、担当者と連携して確認しておきましょう。
また、従業員から退職証明書の交付を求められた場合、会社は遅滞なく交付しなければなりません。これは労働基準法第22条に定められています。さらに、退職した従業員から賃金や本人の権利に属する金品について請求があった場合には、労働基準法第23条に基づき、原則として請求から7日以内に支払い・返還を行う必要があります。
退職時には確認することがいくつもありますが、すべてを店長一人で抱え込む必要はありません。必要な手続きを整理し、店や会社の担当者と協力して進めていきましょう。
普段のコミュニケーションが、退職への準備にもなる
私が店長をしていた頃は、従業員から退職を伝えられたら、まず理由を聞いていました。多かったのは、学生なら進学や就職、フリーターの従業員なら他社への就職です。
普段からコミュニケーションを取っていると、「そろそろ就活が始まる」「卒業したら就職する」といった話が自然に出てくることがあります。店側もある程度分かっていれば、採用やシフトについて少し早めに準備できます。もちろん、プライベートなことまで無理に聞く必要はありません。
また、退職理由を聞くことは、辞める人を引き止めるためだけではありません。仕事内容に認識のズレはなかったか、働きにくいところはなかったかなど、これからの店づくりに生かせることもあります。ただし、本人が話したくないことまで無理に聞き出す必要はなく、退職の意思を尊重しながら、話せる範囲で聞くことが大切だと思います。
退職するときにも、その店の姿勢は表れる
従業員から退職を伝えられるのは、やっぱり寂しいものです。一緒に忙しい営業を乗り越えてきた人なら、なおさら思い入れがあります。それでも本人が次へ進むと決めたのであれば、その意思を尊重し、私は最後まで普段どおり接するようにしていました。
そして、辞めたあとに元従業員がお店へ遊びに来てくれたり、その後も関わりが続いたりすると、やっぱり嬉しいものです。退職は、その人との関係がすべて終わることではありません。
退職のルールを確認し、必要な手続きを進め、最後まで丁寧に対応する。そして、店側にも振り返れるところがあれば、次に生かしていく。人を採用するときだけではなく、人が辞めるときにも、その店が「ヒト」をどう大切にしているのかは表れるのだと思います。
参考にした公的情報
この記事は、以下の法令・公的情報をもとに作成しています。
- 民法
- 第627条 期間の定めのない雇用の解約の申入れ
- 労働基準法
- 第22条 退職時等の証明
- 第23条 金品の返還
- 第39条 年次有給休暇
- 厚生労働省|退職、解雇、雇止めなど
- 厚生労働省|解雇と合意退職・辞職の違いについて
- 茨城労働局|退職の申出があった際には
- 沖縄労働局|退職予定者の年次有給休暇
- 兵庫労働局|退職時の証明と金品の返還
※法令・公的情報は2026年10月時点の内容を確認しています。



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