残業代をきちんと支払っている?経営者・労務担当者が確認すべきポイントを解説

給与・労働時間

あなたの会社は残業代を、きちんと払っていますか?

残業代は、働いた人の生活を支える大切な賃金です。必要な金額を正しく支払うことは、経営者が守るべき基本的な義務でもあります。

飲食業では、開店準備や閉店作業、清掃など、営業時間以外にも仕事が発生します。こうした時間も含めて、実際に働いた時間を正しく把握し、給与へ反映することが大切です。

この記事では、飲食店の経営者・労務担当者向けに、残業代の基本、固定残業代、36協定との違い、未払いのリスクを、できるだけ分かりやすく整理します。自社の残業代が正しく支払われているか、確認するきっかけにしてみてください。

まずは残業代で出てくる言葉を整理

残業代の話では、いくつか聞き慣れない言葉が出てきます。計算の話に入る前に、まずは基本的な違いを押さえておきましょう。

勤務時間

この記事では、勤務時間を始業から終業までの時間帯として説明します。

たとえば、

勤務時間 9時〜18時
休憩時間 1時間

なら、始業から終業までの時間は9時間です。いわゆる「拘束時間」と考えると、イメージしやすいかもしれません。

ただし、この9時間すべてが労働時間になるわけではありません。

労働時間

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間です。

先ほどの例で、1時間の休憩を自由に利用できている場合は、

勤務時間 9時間
休憩時間 1時間
労働時間 8時間

となります。

分かりやすく計算式にすると、

労働時間 = 始業から終業までの時間 − 実際に取得した休憩時間

です。

ただし、労働時間は、実際に手を動かして作業している時間だけではありません。指示された開店準備や後片付け、すぐに業務へ戻る必要がある手待時間なども、使用者の指揮命令下に置かれていれば労働時間に当たります。

休憩中であっても、電話対応や接客を求められ、労働から離れることが保障されていない場合は、休憩時間として扱えないことがあります。

この記事では休憩の詳しいルールまでは扱いませんが、飲食店では特に見落としやすい部分なので、実際の運用も確認しておきたいところです。

所定労働時間

所定労働時間は、会社が定めた労働時間です。

たとえば、

勤務時間 9時〜17時
休憩時間 1時間

なら、所定労働時間は7時間です。

法定労働時間

法定労働時間は、法律で定められている労働時間の基準です。

原則として、

  • 1日8時間
  • 1週40時間

です。

つまり、

所定労働時間=会社が定めた労働時間

法定労働時間=法律で定められた労働時間の基準

と考えると分かりやすいです。

法定内残業と法定外残業

ここが、残業代で特に分かりにくいところです。

法定内残業は、会社が定めた所定労働時間を超えているものの、法定労働時間の範囲内に収まっている労働です。

法定外残業は、原則として1日8時間または1週40時間の法定労働時間を超える労働です。

文章だけでは分かりにくいので、次の図も参考にしてみてください。

所定労働時間7時間の場合の法定内残業と法定外残業

図では、法定内残業を分かりやすくするために、

勤務時間 9時〜17時
休憩時間 1時間
所定労働時間 7時間

という例にしています。

17時から18時までは、会社が定めた7時間を超えていますが、実際の労働時間はまだ8時間以内です。この1時間が法定内残業です。

18時を超えると、実際の労働時間が8時間を超えるため、法定外残業になります。

なお、この図は1日の労働時間を説明するための例です。実際の時間外労働の計算では、1週40時間の基準や、会社が導入している労働時間制度も確認する必要があります。

残業代の基本|1日8時間・週40時間を超えると割増賃金

残業代の基本は、まずこの2つです。

1日8時間・1週40時間

原則として、この法定労働時間を超えて働かせた場合、25%以上の割増賃金を支払う必要があります。

たとえば、時給1,200円の従業員が法定時間外労働を1時間した場合、他の割増が重ならないとすると、

1,200円 × 1.25 = 1,500円

が基本的な計算です。

また、法律では次の割増率が定められています。

労働の種類 法定の割増率
法定時間外労働 25%以上
法定休日労働 35%以上
深夜労働(22時〜翌5時) 25%以上
1か月60時間を超える法定時間外労働 50%以上

割増率は、労働の種類が重なる場合には加算されます。たとえば、法定時間外労働と深夜労働が重なれば原則50%以上、月60時間を超える法定時間外労働と深夜労働が重なれば75%以上です。

ここで大切なのは、「残業したら全部25%増し」ではないということです。

会社が定めた所定労働時間を超えていても、法定労働時間の範囲内であれば、法律上の25%割増がつかない時間があります。それが法定内残業です。

なお、飲食店では、常時使用する労働者が10人未満の一定の事業場について、週44時間の特例が適用される場合があります。また、変形労働時間制を導入している場合は、時間外労働の考え方も変わります。

自社がどの制度を使っているか分からない場合は、就業規則や労働条件通知書、労使協定などを確認してみてください。

見落としやすい法定内残業|8時間以内でも賃金は必要

法定内残業で特に注意したいのが、

「8時間を超えていないから、何も払わなくていい」

という誤解です。

先ほどの例で、所定労働時間が7時間の従業員が、17時から18時まで1時間延長して働いたとします。

この1時間は、原則として法律上の25%割増までは必要ありません。ただし、1時間働いている以上、その時間分の通常の賃金は支払う必要があります。

たとえば、時給1,200円の場合は、

17時〜18時
→ 法定内残業
→ 通常の1時間分として1,200円

18時〜19時
→ 法定時間外労働
→ 原則25%以上の割増を含めて1,500円

という違いです。

なお、就業規則や雇用契約書等で、法定内残業にも割増賃金を支払うと定めている場合は、その定めに従う必要があります。

所定労働時間を7時間30分など、8時間未満にしている会社では、所定労働時間を超えた部分の賃金が給与計算から抜けていないか、一度確認してみてください。

固定残業代がある会社が確認すべきこと

次に確認したいのが固定残業代です。

固定残業代とは、一定の時間外労働等に対する割増賃金を、あらかじめ定めた金額で支払う仕組みです。

たとえば、

基本給 250,000円
固定残業代 50,000円
固定残業時間 30時間

という形です。

ただし、この数字は仕組みを説明するための例であり、50,000円が30時間分の法定割増賃金を満たすことを示すものではありません。実際には、1時間当たりの算定基礎賃金や月平均所定労働時間などを基に、必要な金額を確認する必要があります。

固定残業代は内容を明確にする

固定残業代を導入する場合は、通常の労働時間の賃金に当たる部分と、割増賃金に当たる部分を明確に区別できることが重要です。

また、従業員に対して、固定残業代の金額や対象となる時間外労働等の内容、設定した時間を超える場合の追加支払いなどを、分かりやすく明示しておく必要があります。

確認したいのは、次のような点です。

  • 固定残業代はいくらなのか
  • 何時間分の、どのような労働に対するものなのか
  • 基本給など、他の賃金と区別できるか
  • 必要な割増賃金額を満たしているか
  • 不足が生じた場合に追加で支払う仕組みになっているか

雇用契約書や労働条件通知書、就業規則、賃金規程などを確認し、従業員にも内容が分かる状態にしておくことが大切です。

固定残業代を超える不足分は追加で支払う

固定残業代を払っているからといって、何時間残業しても追加の支払いが不要になるわけではありません。

たとえば、固定残業代を30時間分として設定していて、その月の対象となる時間外労働が35時間だった場合、30時間を超えた5時間分について、追加の支払いが必要になるのが基本的な考え方です。

ただし、実際の計算では、単純に時間数だけを比較すればよいわけではありません。深夜労働や法定休日労働が含まれるか、固定残業代がどの労働を対象としているかなどによって、必要な割増賃金額が変わるためです。

実際に発生した割増賃金額と、固定残業代として支払った金額を比較し、不足があれば差額を支払う必要があります。

そのため、固定残業代を導入している会社でも、毎月の労働時間を正しく把握し、必要な割増賃金が支払われているかを確認しなければなりません。

固定残業代の仕組みや導入時の注意点は、こちらの記事で詳しく整理しています。

▶ 関連記事
固定残業代とは?メリット・デメリットと注意点をわかりやすく解説

36協定があっても残業代は必要

36協定と残業代は、役割が異なります。

36協定は、法定労働時間を超える労働や法定休日労働を行わせるために必要な労使協定です。労働基準法第36条に基づき、所定の手続きを行い、労働基準監督署へ届け出る必要があります。

一方、残業代は、実際に働いた時間に対して支払う賃金です。

36協定 → 法定時間外労働・法定休日労働を行わせるための手続き

残業代 → 働いた時間に対して支払う賃金

という違いがあります。

そのため、「36協定を締結しているから、残業代は払わなくていい」ということにはなりません。協定を締結・届出していても、実際に時間外労働があれば、必要な割増賃金を支払う必要があります。

また、36協定は残業時間を無制限に認めるものでもありません。時間外労働には法律上の上限規制があるため、自社の協定内容と実際の労働時間を確認しておきましょう。

36協定を結ぶ前に確認したいことや、飲食店での考え方はこちらにまとめています。

▶ 関連記事
36協定って何?アルバイトにも必要?残業させる前に知っておきたい基本

残業代未払いが会社に与えるリスク

私が残業代について強く考えるようになった理由の一つに、自分自身の経験があります。

私の義兄が経営していた会社では、長期間にわたり残業代が適切に支払われていない状態が続いていました。

正確な未払い残業代を専門的に計算したわけではないため、確定額を書くことはできません。ただ、当時の給与や勤務状況を振り返ると、本来支払われるべき賃金が十分に支払われていなかったことについて、今も強く考えることがあります。

ここで一番伝えたいのは、会社側の損失ではありません。

本来支払われるべき残業代が支払われないということは、働いた人が受け取るべき賃金を受け取れていないということです。

残業代は、従業員の生活を支える大切な賃金です。だからこそ、「少額だから」「今まで何も言われなかったから」と軽く考えるべきものではないと思っています。

未払いは会社の時間や信用も失う

今は、従業員自身もスマートフォンで労務の情報を簡単に調べられます。未払い残業代が問題になれば、会社側でも過去の勤怠や給与、契約内容などを確認し、必要に応じて計算し直すことになります。

具体的には、次のような対応が発生する可能性があります。

  • 過去の勤怠や賃金台帳を確認する
  • 給与明細、雇用契約書、就業規則を確認する
  • 過去の残業代を計算し直す
  • 従業員と未払い額や支払いについてやり取りする
  • 労働基準監督署や専門家への対応を行う
  • 場合によっては裁判へ対応する

本来なら、採用、人材育成、店舗改善などに使えた時間が、過去の問題への対応に使われることになります。さらに、働いた分の賃金が正しく支払われていなければ、従業員との信頼関係にも影響します。

会社を守ることも大切ですが、その前提として、まず働いた人に正しい賃金を支払うことが必要だと私は考えています。

問題になる前に、まずは自社の運用を確認しよう

飲食業では、閉店時間になったからといって、すぐに仕事が終わるとは限りません。片付け、清掃、レジ締め、翌日の準備など、営業後にも仕事があります。

私自身、飲食業の現場と経営を経験しているからこそ、営業を回しながら労務管理まで細かく見る大変さも分かります。だからこそ、現場任せにせず、会社として仕組みを整えておくことが大切です。

まず確認したいのは、

  • 雇用契約書・労働条件通知書
  • 就業規則・賃金規程
  • 実際の勤怠と労働時間
  • 給与明細・賃金台帳
  • 固定残業代と実際の割増賃金額
  • 36協定の内容と届出状況

などです。

「昔からこうしているから」「他のお店も同じだから」ではなく、今の運用が正しいかを一度見直してみてください。

残業代について少しでも不安があるなら、まず一人分で構いません。

雇用契約書、勤怠、給与明細。

この3つを並べて、実際に働いた時間が給与へ正しく反映されているか確認するところから始めてみましょう。

最後に

残業代は、単なる給与計算の話ではありません。働いた時間に対して、きちんと賃金を支払うこと。その積み重ねが、働く人の安心につながり、長く働ける職場づくりにもつながっていきます。

小さな確認からで構いません。まずは自社の勤怠と給与を見直し、働いた時間が正しく賃金に反映されているか、確かめてみてください。

残業代確認チェックリストを作成しました

この記事で紹介した内容を、自社で簡単に確認できるように「飲食店向け 残業代確認チェックリスト」を作成しました。

雇用契約書、勤怠、固定残業代、36協定など、まず確認しておきたい項目を10個にまとめています。「うちのお店、大丈夫かな?」と思ったときの確認用として使ってみてください。

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残業代や労働時間、休憩など、飲食店で確認しておきたい基本項目を一枚にまとめています。

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※このチェックリストは、残業代の適法性を判定・保証するものではありません。実際の労働時間や賃金規程、導入している労働時間制度などを踏まえ、個別に確認する必要があります。

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